大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和37年(レ)32号 判決 1963年1月22日

控訴人 岩橋進 外一名

被控訴人 橋本一郎

主文

一、本件控訴を棄却する。

但し、原判決の第一項を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し別紙目録<省略>記載の建物を明け渡し、かつ、昭和三七年一月一日より建物明渡ずみまで一カ月金一、六六七円の割合による金員の支払をせよ。

二、控訴費用は控訴人の負担とする。

三、この判決は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の申立

一、控訴人「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一審、第二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求める。

二、被控訴人「本件控訴を棄却する。」との判決を求める。なお、被控訴人の請求の趣旨のうち、金員支払請求の一部を減縮し、その起算始期を昭和三七年一月一日と変更する。

第二、当事者双方の主張

次に記載するものを付加し、原判決の一部を訂正するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

一、控訴人

(一)  被控訴人が本件訴状により控訴人に対し本件建物の賃貸借契約の解約を申し入れたことは認める。しかし、本件建物はその耐用年数を経過していないことはもちろん、朽廃の程度にも至つていないから、本件建物の朽廃を理由とする解約の申入は理由がない。

(二)  原判決は、その理由において、本件紛争の中心である本件建物が朽廃しているかどうかの点について鑑定人松尾皐太郎の鑑定の結果および検証の結果によりこれを判断しているが、これらの証拠をふくめた一切の証拠が原判決事実中に記載されていないから、判決文上では当事者の提出しない証拠に基いて認定した理由不備の違法があるばかりでなく、民事訴訟法第一九一条に定める判決書の絶体的記載事項を欠く違法がある。

二、被控訴人

被控訴人は本件訴訟の提起をもつて控訴人に対し本件建物の賃貸借契約の解約を申し入れた。

第三、証拠<省略>

理由

一、被控訴人が別紙目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有し、控訴人に対し、これを昭和三四年一二月三一日まで賃料一カ月金一、六六七円で賃貸していたこと、被控訴人が控訴人に対し本件訴状により本件建物をとりこわして新築する必要のあることを理由に賃貸借契約の解約申入をしたこと、控訴人はその後もひきつづき本件建物に居住していることは、当事者間に争がない。

二、成立に争のない甲第二号証及び甲第三号証、原審における検証の結果および鑑定人松尾皐太郎の鑑定の結果ならびに当審における鑑定人桜井全衛の鑑定の結果によれば次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

本件建物は木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建建物でその建坪は階上階下とも五坪二合五勺であるが、階下東側倉庫二坪二合五勺を除くその他の部分は控訴人が昭和二七年一月頃被控訴人から借りうけて以来居宅として使用している。本件建物北側のモルタル塗の壁面には数カ所に亀裂があり、ことに北西側の部分はモルタルがはげ落ち、その土台及び柱の下部はいずれも腐触しており、南西隅もほぼ同様の状態にある。本件建物の倉庫の部分は腐朽甚だしく、その南東隅の土台及び柱はいずれも腐触したため、欠損するに至りその原形を留めておらず、れん瓦の土台石との間に隙間が生じている。また、階下出入口の土間と板張の部分の境界にある土台は腐朽し、浮き上つている有様で、風呂場と板張りとの間の土台も腐朽している。本件建物は終戦直後に建てられたバラツクに近い平家建の木造建物の上に二階を増築した俗にお神楽式と呼ばれる二階家であるが、二階が比較的新しいのに比べて、階下は建築後十数年を経過し、前記のとおり土台及び柱の下部が著しく腐蝕していること、モルタル塗の壁に亀裂や剥離等相当の損傷があることからして、階下の負荷能力と二階の荷重との間に既に均衡を失しており、地震、台風等の災害に対して極めて危険な状態にある。従つて、現在においては全面的に解体新築するほかはなく、大修繕によつても、その維持保全を計ることは因難であつて、もはや耐用命数に達している。

三、以上の事実によれば、原告は本件建物をとりこわして別に建物を新築する必要に迫られていることが明かであるから、これを理由とする被控訴人の本件建物賃貸借契約の解約申入は正当であり、本件訴状が控訴人に対し昭和三六年二月一日に送達されたことは記録上明らかであるからそれより六カ月を経過した同年八月一日に賃貸借契約は終了したものといわなければならない。従つて控訴人は被控訴人に対し本件建物を明け渡す義務があるとともに賃貸借の終了した日より後である昭和三七年一月一日から明渡済まで一カ月金一、六六七円の割合による賃料相当額の損害金を支払う義務がある。

四、控訴人は、原判決は原審において提出援用された証拠を掲げていないから判決書の絶対的記載事項を欠き、そのため理由中において理由不備の違法がある、と主張する。しかしながら、民事訴訟法第一九一条により判決に記載すべき「事実及争点」のうちには証拠が含まれないと解するのが相当であるから、判決の事実中に証拠を特に摘示しなくとも違法ではない。のみならず、同法第三五九条によれば、簡易裁判所においては、判決に事実及び理由を記載するには請求の趣旨及び原因の要旨のほか、その原因の有無と請求を排斥する理由である抗弁の要旨を表示すれば足りるのであるから、簡易裁判所の判決にはその事実中に証拠を摘示する必要はない。

従つてこの点について原判決には何らの違法もなく、控訴人の主張は失当である。

五、以上のとおりであるから、被控訴人の控訴人に対する本件建物の明渡請求ならびに賃料相当額の損害金本訴請求はいずれも正当であつて、被控訴人の請求を認容した原判決は相当であつて本件控訴は棄却すべきところ、被控訴人は当審において損害金の請求につきその一部を減縮したので、その限度において主文の記載を変更することとし、訴訟費用については民事訴訟法第九五条、第八九条を、仮執行の宣言については同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 古関敏正 三渕嘉子 高桑昭)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例